一般の僕

1月30日の月曜日。会社内はピリついていた。少なくとも僕の部署だけでも空気が張りつめていたのが分かるくらいに。その理由は監査が入るのだと上司は言った。僕は上司からの指示で30日までに監査のための提出データや資料を準備していた。監査の時間は午後からとなっている。朝イチバンに上司からお昼休みを終えると大会議室に向かうように言われた。何故か分からないけど、監査の空間に僕も入ることになったらしい。

 

大会議室は僕が行った時には長椅子が対面に置かれ、上座に6脚の椅子。下座に前に10脚、後ろに10脚、計20脚の椅子が置かれていた。時間は14時を過ぎた辺り。恐らく市役所からだろうか。派遣された監査員たちが上座に来た。6名だった。そして、この監査の為に会社側は部長クラス・課長クラス・科の科長クラスが勢ぞろいしていた。要するに、お偉いさん方の寄せ集め大集合。大乱闘スマッシュブラザーズかなって。この時点で気づくべきだったのだが、ヒラ社員は僕だけだった。監査が始まる。合コンの自己紹介かなって感じで挨拶がなされた。監査員は○○部主任とか課長とか名乗っていた。そして、僕たちも名乗らされた。○○部、部長とか。○○部課長とか。そして僕の順番が来た。事務部ゆうとです。と頭を下げた。すると監査員から『失礼ですが、ご役職は?』と聞かれて何を思ったか、『一般です』って答えて笑われた。何に対しての一般か自分でも分からないのだが、急に言われて出た回答がコレだったのだ。僕の一般、発言で急に空気が変わってしまった。厳粛なムードを壊したのは僕だった。後日、聞いたのだが、むしろ空気が壊れた方が良かったらしい。

 

そして、1時間くらい現場視察が入った。その時には各々が所属する部署の案内をしていた。一般の僕は、大会議室に1人ポツンと座っていた。一般なので案内はしない。案内は課長がしているし、上司も監査員からの質問対応に追われている中で一般の僕に質問が飛ぶことは無かった。その後、現場視察が終わると監査員の方が、僕の作成したデータや資料に目を通し始めたのだ。僕の仕事はココから始まる。僕はそう思った。だって1時間くらい何も無かったんだから。会議室に1人放置プレーをされていたのだから。そして、上司にも監査に出席するように言われたから何かあるでしょって思っていたら何も無かった。膨大な量の資料とデータを印刷した紙をパラパラと監査員が見ている。『うん。よしっ。』監査員の、この言葉で僕の仕事が終わった。何もやっていないが、何も無くて良かった。一般の僕が出来るのはココまでで、何も無く監査を終えたから良しとしよう。

 

緊張して臨んだ監査だが、普段の上役の方たちと過ごせたので、こっちの方がインパクトあった。