初めて音楽を生で聞いた話

恥ずかしながら、まぁ恥ずかしくもないけど。僕は人生で一度もライブというものに参加したことがない。お笑いや音楽のライブという全てひっくるめて人生でライブという枠の中に入っていったことがない。強いて言えばスポーツ観戦と舞台を1度だけ見に行ったことがあるくらい。それぐらいに縁がなく、遠い存在だった。

 

まだ、寒くなる前。上着は着ていたと思うけど、それくらい前の時期。いつものバーにいつものように入店する。何度か通ううちに顔見知りも増えた。声をかけれる人も増えた。そこでいつものようにお酒を飲んでいると40代から50代くらいの男女ペアで入店してきた方がいた。とりあえず先に言っておくと女性の方はパワフルだったことくらい強烈なインパクトがあった。ディープインパクトかなって。「世界のホースマンよ見てくれ!!これが近代競馬の結晶だぁああー!!!」つってね。ダイソン並みの吸引力があって、周りを巻きこむ能力がピカイチだった。そして。どうやら、その方たちは、音楽をやっているみたいで、その日ライブがあって打上げの2軒目と言った感じ。程よく酔ってらっしゃった。

 

僕と顔なじみの常連さんが、音楽をやっているという話を聞いて、1曲お願いします的な会話をして男性がギターを女性が生歌で即興のライブをしてくれた。正直に言って良かった。音楽ってホントに音楽なんだなぁと実感した。音が出て楽しいみたいな感じ。ギターの音も初めて聞いた。僕が聞いたことがあるのはCDから流れる。ラジオから流れてくる音楽だったから。即興でライブをして頂いた方は、もちろんプロじゃないし、セミプロくらいなのかな?分からないけど。スピーカーから流れる音とは違う。心地よさがあった。

 

ふっと。1曲お願いした常連さんとギターを演奏していた男性がギターを触るか?的な話になり、常連さんがサラッとギターを弾いてみせた。僕は驚いた。弾けるの?つって。自慢じゃないが僕は楽器も出来ない。「楽器も」と「も」を強調したのは、基本的に何も出来ない人間なのだ。ギターを弾いた常連さんはどうやら学生時代にバンドやってたとかなんとか。

 

その瞬間に僕は急に我に返った。僕は薄いのだ。人間的に薄い。経験値や世の中の教養的なこと、芸術的なこと、その他諸々を知らない。知らないまま大人になってしまった。強烈な個性を持っている音楽家さんと、サラッとギターを弾けてしまう常連さんを見て、やっぱり僕自身が衝撃を受けた。本当に僕ってなにも無い人間なんだなぁと感じてしまった。

 

この日。起こったことは明るく良かったのに、僕の頭の中は少し暗く悲しくなってしまった。なにも出来ない人間だと。足りない人間なんだと。自分の今までの行いの罰を受けながら生きるしかないのかもしれない。